ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は、印象派詩人 マラルメの田園詩「牧神の午後」を題材として作曲されました。
当初ドビュッシーは、マラルメの「牧神の午後」からは、前奏曲、間奏曲、終曲の三部作構成の作曲予定でしたが、前奏曲だけで十分マラルメ
の「牧神の午後」の詩想を表現できたと判断し、あとの間奏曲、終曲を中止したといわれています。
ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は1894年に発表されました。初演早々から大評判となり、ドビュッシーの印象主義の作曲家としての地位を世界的なものにした、とされています。
そのマラルメの田園詩「牧神の午後」はギリシャ神話「牧神パン」を主材にしています。
上半身が人間、下半身が動物というギリシャ神話の牧神パン。
暑くけだるい夏の午後、牧神パンは白昼夢をみる。
森の草むらでまどろんでいた牧神パンは、夢心地のまま葦笛を吹き、水辺で水浴びをしていた妖精のことを思い出している。
白い肌に光が反射してまぶしかったこと、思わず抱きしめたい衝動に駆られたこと、そして空想はさらに拡がり、ついに女神ヴィーナスをとらえる。
抱擁し、官能の嵐の中にもうろうとした喜びを感ずる。
やがて幻影は消え、牧神パンは白昼夢から目覚める。
辺りに音はなく、草いきれが静かに彼をつつむ。
茫漠と広がる倦怠感の中、いつしかまた牧神パンはまどろみはじめる。
(注) Claude Achille Debussy (1862〜1918 フランス)
Stephane
Mallarme (1842〜1898 フランス)
出典:「おもしろクラシック100」宮本英世 著より意訳